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気がつくと世界に一人になっていた。悪くない気分だった。元々一人で過ごすのは嫌いじゃない。完全なる孤独の世界は、寂しさよりもむしろおもしろささえ感じさせた。

街並みは全て油絵に変わっていた。絵の具の凹凸を指で撫でると、猫の舌が思い出された。猫が居れば良いな、と思い辺りを見回したが、何の気配もなかった。生き物はみないなくなってしまったらしい。仕方ないので、また歩き始める。

森に入ると、木漏れ日が眩しい。天気が良い。ついさっきまで曇り空だったはずなのに、街を出てこの森に来た途端、真夏日のように明るくなった。心なしか気温も高い。木々のざわめきが話し声に聞こえて、そんなはずはないのに、それを解読しようと試みる。かろうじて、花火大会の開催が危ぶまれている、といったような内容を聞き取れた。こんなご時世だ、仕方ないことだろう。

森を抜けると夜になっていた。ガラス張りの大きな建物が見えてきたので、暗闇の中、微かな街灯を頼りに向かう。内部はひんやりと静かで、高い天井からいくつものモービルがぶら下がっている。星を象ったクッキーが付いているようだ。思い出したように空腹を感じて、しかしぶら下げられたクッキーを食べたいとは思えず、建物を進んでいく。

ガラス張りの建物は、外から見るよりも広い内部をしていた。よくよく考えたら、こんなに広いはずがない。もはや入り口も出口もわからないまま、いつまでも彷徨い続ける。遠くから何か、美味しい匂いがする。マクドナルドの気がする。サムライマックが食べたい。つられてそちらに向かうと、黒猫がいた。嬉しくなって抱きしめると、柔らかく温かい。焼きたてのパンのようなその匂いを嗅いでいると、猫が喋った。

「それにしても、こんな時に花火大会だなんて、呑気な連中も居たもんだな」

本当にね、と呟き、その長い尾をくるくると弄んだ。