2/11

異世界転生チート主人公、なんて少し前は半分ネタのように言われていたが、今や歴史ある一大ジャンルだ。
私も全く、馬鹿にする気は毛頭ない。そもそも、物語を通して主人公が成長する方がファンタジーだ。人はそう簡単に変わらない。元から持っている知識や技量以上に何かを獲得するのは、とても困難だ。ひとつやふたつ、物語を経るだけでは、不可能なことの方が多い。
だから世界の方を変える。ごく正当な判断だ。物語において、世界を変えるのなんか、赤子の手を捻るようなものだから。
主人公は変わらない。成長も退化も、劇的な変化は何一つない。何故なら主人公は、より多くの人に自己投影されるべき存在だからだ。変わるのは世界と、周りの人間だけ。それでいい。そんな物語が受け入れられる世の中は、正しくてわかりやすい。
とはいえ、やはりもし自分が物語の主人公になるなら、びっくりするような超能力を手にしてみたいと思う。いや、びっくりするようなものではなくてもいい。今の自分にない力なら、なんだって構わない。大いなる力には大いなる責任が伴う。責任を負うのは恐ろしい。ちょっとした能力か──否。やはり自分に主人公は荷が重い。地の文くらいが丁度いい。主人公にも世界にも無関係な、観測者が一番、性に合っている。トラックにぶつかって転生しても、地の文でいたいなと思う。