1/20

帰り道めっちゃ雪が降っていて書こうと思ってたことを全部忘れた。

とりあえず、「他人のツイートの引用リツイートでバズるのだけは絶対嫌だ」と思っていた気がする。

寒すぎて何も考えられないので風呂に入って日本酒を飲むことにします。

好きな日本酒は岡山の伊七というお酒です。甘口寄りの淡麗でとても飲みやすいです。吟醸が好き。

それではおやすみなさい。

1/19

一番寺先輩が結婚するらしい。

一番寺先輩というのは、私の中学時代の先輩だ。一応新聞部の直属の先輩だったけれど、特別仲良くしてもらったわけではない。地味な生徒ばかりの新聞部において、一番寺先輩は有名人だった。絶妙に下手な関西弁、軽快なトーク、天才的な空気を読む能力、誰に対しても当たり障りなく、どんな雰囲気も自分の土俵に変え、それでいて悪目立ちはしない。やけにオカルトや都市伝説に詳しい。野暮ったく伸ばした黒髪が、丸眼鏡にかかるほどで、けれどその向こうの顔はそこそこ整っている。

部の内外を問わず、また学年を跨いで、彼のことを知る生徒は多かった。友達の話に登場することが多いのだろう。それから文化祭や体育祭なんかで、じわじわと彼の知名度は上がっていた。そんな中私は、周囲の生徒が噂をするのを、隣で素知らぬ顔をして聞いたりしていた。

「一番寺先輩って、ホントおもしろいよね」

「こないだの文化祭、号外新聞配ってたじゃん? あの記事全部、一番寺先輩の作ったフェイクニュースらしいよ」

「やば! 狂ってんじゃん」

「でもカッコいいよね〜彼女いんのかな」

「居ないっしょ! てか彼女になったら大変そう」

「わかる〜」

馬鹿馬鹿しい。当時の私はそんな風に一蹴して、とっととその場を離れた。一番寺先輩が恋愛なんかに興味を持つはずがない。あの人が愛しているのは、人間の恐怖心と、おもしろい嘘と、彼自身だけだ。


その一番寺先輩が、結婚するらしい。


卒業後は直接連絡を取ったこともなくて、人伝に最近の動向を時々聞くくらいだった。高校ではオカルト研究部を立ち上げたとか。大学はそこそこ良いところに行ったとか。鍵付きのツイッターアカウントとか。就職は関東とか。ネットニュースのライターになったとか。記事がバズってるとか。炎上したとか。

その度に、元気だなぁなんて思っていた。

「めちゃ美人らしいよ、結婚相手」

久しぶりに会った同級生が、にやにやと私を見る。

「しかも二年付き合って結婚とか、ヤバくない?」

ヤバいね、と私も答える。彼女のヤバいと私のヤバいは、果たして同義だろうか。

「風見、先輩と仲良かったじゃん。なんか思うところないの?」

……ああ。なるほど。そこで初めて、私は期待されている反応を知る。けれど残念ながら、私は先輩と特別仲良くした覚えはない。

「嘘! よく話してたのに」

馬鹿な女。先輩は誰にだってああなんだよ。私が特別なんて、思い上がりも甚だしい。先輩のこと、何も知らない癖に。


一番寺先輩の卒業式の日。寄せ書きたっぷりの色紙と、花束を抱えて、全てのボタンを失った先輩が、私のところに来た。

「風見ィ、新聞部のこと、頼んだで」

いつもと変わらない、胡散臭い笑みを浮かべ。

「お前は僕の一番弟子やからな。一番寺の一番弟子ってな」

彼は大声で笑った。私は笑わなかった。

「それ、全員に言って回ってるんだとしたら、相当サムいっすよ」

「いやちゃうねん。お前にしか言えんギャグやから、お前に言いに来たんよ」

調子の良いことを。けれど確かに、部内で一番、先輩とオカルトの話をできるのは私だった。私も都市伝説とかネット掲示板の怖い話が好きだったから。だから先輩のこと、尊敬していた。

そのあと──どうしたっけ。何を話したっけ。何も覚えていないけれど。


一番寺先輩が結婚するらしい。

美人の、二年付き合った女と。


結局勝ち組じゃないか。

つまらないな。

もう顔も半ば思い出せない先輩のことをぼんやりと考え、私は溜息をついた。

1/18

収集癖があるので、部屋に物がどんどん増える。しかも飾っておきたい派なので、地震が起きたらまず間違いなくこの部屋は終わる。

さすがに全てを飾るのは無理なので、ある程度棚にしまっているが、本音を言うと全部飾りたい。アクセサリー、本、グッズ、香水、服、全て見えるところに置いておきたい。そういうコンセプトの部屋があったら絶対に住みたい。デザイン関係の人、よろしくお願いします。

しかしまあ、生きていればいるほど増えていくこれらのモノに、不安が芽生えることもある。自分が死んだら、この膨大な量のモノはどうなるのだろうか。棺桶ってどれくらいまでものを詰めて良いのだろう。火葬場の棺桶エレベーターみたいなヤツで、ブザーが鳴ったら最悪だな。というかあまり異物を入れてはいけないものなのだろうか。よく考えたら、良くない煙とか出そうだ。死んでなお地球を汚染したくはない。

理想の葬式についてはよく考えるのだが、遺品の処理についてはこれまであまり考えてこなかった。案外モノに執着はないのだ。集めることとそれを眺めることが好きなだけで、その行く末がどうなるかなんて考えられない。逆に言えば、“いずれ捨てるから”とかいう理由でモノを買わない、という選択肢もない。今欲しいモノを、今欲しいだけ。至極普通の行動だ。

そんな性質のせいか否かはわからないが、買って後悔したものはない。買わずに後悔することばかりだったので、最近は迷ったらなるべく買うようにしている。そうして部屋にモノが増えていく。実に幸福だ。

こうしてまた、理想の葬式のアイデアが一つ増えた。いずれこの部屋が本当に欲しいモノで溢れた時、この部屋で死んで、そのまま部屋ごと火葬されたい。さぞ近所迷惑だろう。やっぱりこの案は無しだ。死に方は普通に限る。

1/17

気がつくと世界に一人になっていた。悪くない気分だった。元々一人で過ごすのは嫌いじゃない。完全なる孤独の世界は、寂しさよりもむしろおもしろささえ感じさせた。

街並みは全て油絵に変わっていた。絵の具の凹凸を指で撫でると、猫の舌が思い出された。猫が居れば良いな、と思い辺りを見回したが、何の気配もなかった。生き物はみないなくなってしまったらしい。仕方ないので、また歩き始める。

森に入ると、木漏れ日が眩しい。天気が良い。ついさっきまで曇り空だったはずなのに、街を出てこの森に来た途端、真夏日のように明るくなった。心なしか気温も高い。木々のざわめきが話し声に聞こえて、そんなはずはないのに、それを解読しようと試みる。かろうじて、花火大会の開催が危ぶまれている、といったような内容を聞き取れた。こんなご時世だ、仕方ないことだろう。

森を抜けると夜になっていた。ガラス張りの大きな建物が見えてきたので、暗闇の中、微かな街灯を頼りに向かう。内部はひんやりと静かで、高い天井からいくつものモービルがぶら下がっている。星を象ったクッキーが付いているようだ。思い出したように空腹を感じて、しかしぶら下げられたクッキーを食べたいとは思えず、建物を進んでいく。

ガラス張りの建物は、外から見るよりも広い内部をしていた。よくよく考えたら、こんなに広いはずがない。もはや入り口も出口もわからないまま、いつまでも彷徨い続ける。遠くから何か、美味しい匂いがする。マクドナルドの気がする。サムライマックが食べたい。つられてそちらに向かうと、黒猫がいた。嬉しくなって抱きしめると、柔らかく温かい。焼きたてのパンのようなその匂いを嗅いでいると、猫が喋った。

「それにしても、こんな時に花火大会だなんて、呑気な連中も居たもんだな」

本当にね、と呟き、その長い尾をくるくると弄んだ。

1/16

競馬に負けたので今日の更新はありません。


と言いたかったのだが、せっかく競馬に負けたので、少しだけ競馬の話をすることにした。

競馬のことは、宗教であり、音楽であり、芸術であり、ドラマであり、人生だと思っている。オタクっぽく言うと「無理……最高」である。

こんな風になったのは十五の時だ。高校合格を祝ってか何か知らないが、父親が休日に珍しく私を誘い、連れて行かれた先が競馬場だった。重賞レースもない普通の日だったのは、今思うと幸運だったのだろう。人の殆どいない観客席の最前列で、食いつくようにターフを見た。

あの日のことを、生涯忘れはしないだろう。駆ける馬のしなやかな肉、脈打つ血管、泡立った汗、流星のような尾、地を揺らす足音。

私は競馬に狂ってしまった。

それから必死になって動画を見た。幸か不幸か、インターネットで情報収集するのは、同年代と比べても比較的得意だった。ものの見事に私は競馬にハマった。父親が引いていた。ふざけるな。

一週間後。2012年皐月賞。私はある馬の虜になり、さらに人生を狂わされることになる。

この先の話は、ここでは控えるが、それ以来もう十年近くも競馬に狂い続けている。世情も自身も様々変わったが、競馬に抱く思いだけは変わらなかった。美しく、命懸けで、血と土に塗れた唯一無二の瞬間。競馬は救いだ。

そんなわけで今日も競馬を見る。来週も見る。来年も見るだろう。たぶん、死ぬまで。だって救済だから。

1/15

社会性がないので、トークスキルを努力して磨いている。

とはいえ才能がないので、こういう話にはこう返す、みたいなパターン化が年々深まっている。こうしてワンパターンな会話しか出来なくなるのだった。

長年付き合っている友達との会話なんてもう、毎回同じ会話しかしていない気がする。

今日はこれの解決法を考えていたのだが、一個も思いつかないまま一日が終わった。たぶん、無理なのだと思う。

思いつかなかったので今日はこれだけである。

1/14

他人に泣かれるのがめちゃくちゃ苦手だ。

泣いている人に対して、どう対応するのが正解かわからない。何の根拠もなく大丈夫だよ〜なんて言ってみたりする。何も大丈夫ではない。こっちが一番大丈夫ではない。

居た堪れないので、落ち着くまで一人にしてあげる、みたいな、完全に偽善の対応を取ったりする。目の前で泣かないでくれ。泣き止んだら呼んでくれ。

それがどんな理由であれ、他人に泣かれるのが苦手だ。だいたい、体液を人前で流すのって、物凄い怖いし。汗でさえあんまり人前でかきたくないし。他人のものなんてなお一層怖い。

一緒になって泣いてる人とか見ると、むしろ安心する。お任せします。私に出来ることはもうありません。

逆に自分が泣くのは全然怖くない。一緒になって泣かれるとびっくりする。泣かないでくれ。

というか年々涙腺が緩くなっている。それは普通だから別に構わないけれど、いつまで経ってももらい泣きはしない。泣いてる人が苦手だから。誰も俺の前で泣くな。俺だけ泣いていたいから。